オミクロン変異株【BA4・BA5】とは何か?これまでとの違いについて解説
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はじめに:
こんにちは。西春内科・在宅クリニックの伊藤です。
令和4年7月に入って、暑い日々が続いていますね。
そのような中でコロナの感染者数は急増していることはニュースを見ていただければ分かるかと思います。
家来るドクターへの往診要請も急増しており、「第7波」は確実にこれまでよりも大きいものになるでしょう。
今回の感染拡大と今までの感染拡大との違いはコロナウイルスの変異が異なることです。
今回広がってきたウイルスは前回と同じオミクロンですが「BA.4」あるいは「BA.5」という変異株になります。
今回は、この急速に感染が広がっている「オミクロン株(BA.4/BA.5)」についてわかりやすく説明します。
目次
オミクロン変異・派生株【BA4・BA5】とは何か?
2020年から始まってパンデミックを起こしたコロナウイルスですが、「変異株」を数多く作ってきました。
最初に見つかった武漢株に始まり、アルファ株、ベータ株、デルタ株、オミクロン株と変異を続けてきました。
今年の1月に流行したオミクロン株は「BA.1」と呼ばれる株となります。
>>新型コロナのオミクロン株に感染したら?感染力・初期症状・対処方法
その後、流行株となったのが皆さんも聞いたことがある「ステルスオミクロン」と呼ばれる「BA.2変異株」でした。
>>ステルスオミクロン株(BA.2)の特徴とは?初期症状や感染した時の対処方法について
そして現在、日本で増激増しており、世界中ではすでに感染の主流になっているものが「BA.4/BA.5変異株」です。
BA.4変異株とBA.5変異株のどちらもBA.2変異株に似たウイルス株であり、今年の4月に南アフリカで最初に発見されその後の感染拡大につながりました。
日本では4月ごろから出現し始めて、東京都では令和4年7月下旬時点で2人に1人がBA.4/BA.5変異株に感染していました。
東京都でのゲノム解析に至った症例の解析結果を見てみると、5月にはほとんど見られなかったBA.4/BA.5変異株がたった1ヶ月で広まってきていることがわかります。
図1
第94回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年7月21日)より抜粋
なぜ新型コロナウイルス感染症は変異し続けるのか?
何故、新型コロナウイルスウイルスが変異し続けるのかというと、ウイルスも生存しなければいけないからです。
自身が淘汰されないために、自然界の環境変化に適応できるよう遺伝子を変化させていきます。
ウイルスは単独で増えることができないため、人に感染し細胞内で増えていきます。
ウイルスが増える際にウイルスの持っている遺伝情報であるRNAに変異が起こります。
すると時にウイルスの「スパイクタンパク質」という部分に変異を起こします。
このスパイクタンパク質はヒトの細胞に感染する際の足場となる重要な部分であり、この変異により感染の広がりやすさ(伝播性)、病気の重篤さ(病毒性)、ワクチンや免疫効果の減弱化(免疫逃避)に変化がおこります。
一般的なウイルスは宿主を殺さないように、感染を維持できるように変異を繰り返すといわれており、「弱毒化、易感染化」と聞いたことがある方もいると思います。
一般的なウイルスでは、このような変異は長い年月をかけて起こってくる事象でした。
そのため、短期間で変異を繰り返している新型コロナウイルスにこの事象が当てはまるかどうかは不明です。
BA5と、これまでのオミクロン株との違いは?
ここからは、日本で感染拡大がみられるBA.5変異株について中心に説明していきます。
BA.5変異株については、海外で先行して広がりを見せてきましたので、海外の報告からつぎのようなことがわかっています。
- 2変異株に比べて感染拡大しやすい。
イギリスからの報告をお示しします。グラフは右に行くほど感染拡大のスピードが速いことを示しています。
この報告では、BA.5変異株はBA.2株よりも35%早く広がっているといわれています。
また、BA.4変異株は19%早く広がっているといわれています。
図2
Investigation of SARS-CoV-2 variants: technical briefingsより抜粋、一部編集
一方で日本でのBA.5変異株の広がり方をみてみましょう。
図3
第94回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年7月21日)より抜粋
東京都でのBA.5変異株の広がり方を見てみると、前回の変異株であるステルスオミクロン(BA.2変異株)の拡大スピードとほとんど変わらないようにも見えます。
これらの情報からいえることは、BA.5は少なくともBA.2変異株と同等の感染力を持っているのではないかと思われます。
- BA1や2に対する免疫に抵抗性を持っている可能性がある。
BA5は先ほど説明したスパイクタンパクのうちL452R、F486Vといった変異があることが分かっています。
これらの変異によって、これまでのオミクロン株への感染でつくられた免疫から逃げることができるといわれています。1)
BA 5の症状の特徴は?
BA.5変異株は欧米において日本よりも早期に拡大してきました。
欧米で報告されているBA.5変異株の症状は以下のようになります。
- 発熱
- 咽頭痛
- 鼻水
- 頭痛
- 疲労感
- 筋肉痛
などといった今までのオミクロン株(BA.1/BA.2)と同じような症状がみられます。
また、BA.5変異株に特徴的とされている症状は、
- 長引く咳
- 味覚、嗅覚の異常、喪失(第5波、6波では少なかった)
と言われています。
私が往診して新型コロナウイルスに感染した患者さんを診ていると、比較的軽い症状の方を多くお見受けするようになりました。
インフルエンザと症状自体はよく似てきたように思っています。
また、胃腸症状(下痢、腹痛)によって新型コロナウイルスを発症する方も一部にはいるようですので、胃腸炎と誤って判断してしまうこともあり、注意が必要です。
比較的軽い症状が多いと思いますが、味覚、嗅覚の異常を訴えられる方もたびたびいらっしゃいますので、「風邪とかわらない」という感覚でいることは危険だと思います。
一度感染した場合でも、BA.5に再感染する可能性は?
先ほど説明しましたが、BA.5変異株は免疫逃避機構を持っていることが分かっています。
免疫から逃げることができるということは、これまでの感染によってできた免疫では対処できないということです。
つまり、再感染のリスクは十分に考えられるということです。
「一度コロナに感染してからどのぐらいの期間は再感染しないですか?」という質問をいただくことがあります。
私からの回答としては、「わかりません・・・・。ただ、3か月程度は大丈夫かな・・。」といったところです。
あくまでも私が往診している中での再感染期間からみた印象ですので、絶対に大丈夫ということではありません。
海外では、1か月以内での再感染という報告もあるようですので、感染したから免疫があるので対策しなくても大丈夫ということではないのです。
新型コロナウイルスに感染して、治癒した後も感染対策を引き続き行いましょう。
新型コロナウイルスのワクチン接種・予防・治療薬について
果たして私たちは今後も永遠とワクチンを接種する必要はあるのでしょうか。また、ワクチンを接種することでどれぐらい予防できるのでしょうか。
みなさん気になるところではると思いますので1つ1つ詳しく解説していきたいと思います。
ワクチン接種はBA.5変異株にも効果はある?
免疫から逃げることができるならワクチンはいらない!!と思われる方もいるかと思います。
今皆さんが打っているワクチンでできた免疫ではBA.5変異株の感染を抑えることはできないという報告があります。
海外では、ブースター接種2週間後の中和抗体(感染予防や重症化を抑える効果がある)を調べた研究があります。
中和抗体価はBA.5はBA.1の約1/3であったため、BA.5は免疫から逃げている可能性があると結論付けました。
図4
Neutralization Escape by SARS-CoV-2 Omicron Subvariants BA.2.12.1, BA.4, and BA.5
より抜粋、一部編集
たしかに、中和抗体価が高いことは感染抑制につながりますが、異なるウイルスでの抗体価の結果を横に並べて比較することは正しい解釈とは言えないかもしれません。
この表で見ていただきたいところはブースター接種によってBA.5変異株への中和抗体価が100倍以上になっているというところです。
つまり、ワクチンを接種することで一定の感染予防、重症化予防効果はあると考えられます。
また、アメリカのCDCからの報告ではブースター接種を受けていない人はブースター接種を受けた人の14倍もの死亡率となったと報告されました。2)
これらのことから、私は「ワクチン接種はできるだけ受けたほうがよさそうだ」と思います。
ワクチンを4回接種することでの恩恵はまだはっきりとはわかっておりませんので、今後も情報を集めて更新していきたいと思います。
また、米国ではBA.4/BA.5変異株を対象としたワクチンの開発がスタートしています。
今年の秋の使用を目標としているようですので、詳しい情報が分かり次第そちらも情報をお伝えします。
BA.5変異株の予防とは?
予防については、どの情報をみても、どのテレビをみても同じことを言っていると思います。
コロナウイルスが流行しはじめてから現在まで、皆さんが気をつけて行ってきた
“マスク”、“手洗い”、“うがい”、“消毒”、“三密の回避”
これに尽きると思います。
感染力が強いということは予防の強度を上げる必要があると考えます。
これまで以上に感染対策には気をつけていただきたいと思いますが、夏場はマスクの着用などで熱中症になる確率も上昇する恐れがあります。夏場のコロナ対策や熱中症については以下の記事も参考にしてください。
>>コロナ禍で気をつけるべき熱中症対策とコロナと似ている症状について
BA.5変異株に効く薬はある?
現在、日本で使用できるコロナウイルスに対する薬は、中和抗体薬(点滴)であるソトロビマブ及びカシリビマブ/イムデビマブと経口治療薬(飲み薬)であるモルヌピラビル及びニルマトレルビル/リトナビル、レムデシビルがあります。
そのうち中和抗体薬は残念ながらBA.5変異株への効果は乏しいことがわかっています。一方で経口治療薬は効果があることがわかっています。
>>新型コロナ感染症の治療薬【経口抗ウイルス薬(飲み薬)ラゲブリオ・パキロビッド・ゼビュテイ】について
新型コロナウイルス第6波と第7波の違いは?
新型コロナウイルス第6波と第7波では何か明確な違いはあるのでしょうか。
第6波と第7波共に新型コロナ変異株「オミクロン株」によって爆発的な感染拡大が起こっています。
まず、感染拡大している変異株の種類が違います。
先述の通り、第6波ではオミクロン株(BA.1)やステルスオミクロン(BA.2)が主流でしたが今回の第7波では、より感染力が強いとされるBA.5に置き換わりつつあります。
そのために感染拡大のスピードは、第6波を大きく上回っていると言えるでしょう。
急速な感染拡大により、症状があっても、検査を受けられないケースも出てきています。
既に医療ひっ迫が始まっている医療機関もあるため、爆発的に陽性者が増える第7波に対して現場は新たな対応を迫られている現状です。
また、第6波の時に比べると、新型コロナウイルスに感染した子どもの救急搬送の要請が多いとの報告もあります。
これは、小児はワクチンの接種率がなかなか上がっていない現状があり、熱性けいれんや高熱を出して水が飲めなくなって入院が必要となるような子どもが急激に増えていることが原因と考えられています。
子どもでも重症化リスクはあるため、何か症状がある場合は経過観察をしっかり行うようにしてください。
病院や家来るドクターでできる新型コロナウイルスの治療
大きな病院では診断、治療、入院による高度な新型コロナウイルスの治療も行うことができます。
家来るドクターでは、新型コロナウイルス抗原検査・PCR検査を持って往診をしますので、診断を行うことができます。
往診では、呼吸状態(酸素飽和度)も調べることができますので、病院を受診した方が良いか、自宅で経過をみることができるかの判断を行うことも可能です。
少しでも体調の変化や気になることがございましたらまずはお気軽に家来るドクターへご相談ください。
まとめ
いかがでしたか。今回の記事でオミクロンBA.5変異株について理解していただけましたでしょうか。
BA.5変異株は
- これまでと最低でも同じあるいはそれ以上のスピードで広がっている。
- これまでの感染やワクチン接種でできた免疫から逃げる可能性がある。
- 症状や重症化リスクはこれまでのオミクロン株とほぼ変わらない。
- 治療薬では経口治療薬は有効と考えられる。
といえるでしょう。
今はBA.5変異株が流行して猛威を振るっていますが、秋から冬にかけてさらなる別の変異株が流行しているかもしれません。
感染経路が変わることはおそらく起こることはないと思います。変異を起こしていても、
“マスク”、“手洗い”、“うがい”、“消毒”、“三密の回避”
といった、感染対策を行うことはとても効果的な感染予防となります。
感染対策にも、もう疲れてしまっているかもしれませんが、今一度気を引き締めて対策していただきますようお願いいたします。
【追記】最新の新型コロナ変異株BA.2.75について
私がこの記事を書いているさなかにも新たなオミクロン変異株BA.2.75が日本で発生したとのニュースが出てきました。
BA.2.75はBA2の変異型でありますが、BA.4/BA.5とは全く異なります。
BA2.75は今年5月にインドで初めて発見され、K147E、W152R、F157L、I210V、G257S、G339H、N460Kの8つのスパイクタンパクに変異がみられます。
これらの変異が、伝播性、病毒性、免疫逃避にどれだけの影響を及ぼすかはまだ分かっていませんが、今後日本でも広がってくる変異株かもしれません。
いずれにしても感染予防が大切です。
【参考文献】
1)Nature. 2022 Jun;606(7916):848-849.
2)https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#rates-by-vaccine-status
【監修医師】
西春内科・在宅クリニック 伊藤医師
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