陰部や性器のかゆみがつらいときに考えられる性病について
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はじめに
お久しぶりです。西春在宅・往診クリニック医師の伊藤です。先月は性感染症について書かせていただきましたが、今月も引き続き性感染症に関連した内容をおとどけします。
「陰部がかゆい」と感じた事はありませんか?
恥ずかしくて友人、パートナー、家族にはなかなか相談できませんよね。
その‘かゆみ‘、もしかしたら気づかないうちに感染していた性感染症かもしれません。
今回はその‘かゆみ’について、簡単にわかりやすく説明していきたいと思います。
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目次
かゆみが生じる原因について
陰部のかゆみには大きく分けて「感染症」と「炎症(皮膚炎)」の2つがあります。
「感染症」は、細菌、ウイルス、真菌(カビ)などといった病原体に感染する事で発生します。
陰部に発生する感染症の多くは性行為を介して感染することが多く、性感染症(性病)と呼ばれます。
陰部は特に粘膜に近いことや蒸れやすいことから、細菌、ウイルス、真菌が繁殖しやすい部位となります。
一方で「炎症」は、下着による締め付け、下着のこすれ、陰部の蒸れ、女性であれば生理用ナプキンとの接触などで皮膚に刺激が起こることで発生します。
考えられる性病の種類
陰部のかゆみを引き起こす感染症について簡単に説明します。
それぞれの感染症については別の記事にて詳しく説明していますので気になる方はリンク先もチェックしてください。
クラミジア
「クラミジア・トラコマティス」という細菌による感染症です。
日本で最も多い性感染症です。
感染しても無症状な方も多いですが、陰部のかゆみや痛みを引き起こすことがあります。
さらに症状が進むと男性では尿道炎や精巣上体炎を、女性では子宮頸管炎や骨盤腹膜炎などを引き起こし、不妊の原因となる可能性があります。
梅毒
「梅毒トレポネーマ」という細菌による感染症です。
減少傾向にある感染症でしたが、近年になり増加傾向にある感染症です。
感染した場合、陰部のかゆみやしこりから始まり、その後バラ疹と呼ばれる特徴的な赤い発疹が出現します。
さらに放置すると脳や心臓に障害を起こす可能性があります。
>>今だからこそ知ってほしい急増中の梅毒の原因と症状について
トリコモナス
「膣トリコモナス」という原虫(寄生虫)による感染症です。
男性は尿道炎、女性は膣炎や膀胱炎を引き起こします。放置すると不妊のリスクとなります。
ヘルペス
「単純ヘルペスウイルス」というウイルスによる感染症です。
およそ10−20%の人が感染しています。
感染しても無症状のことが多いですが、多発性で1cm程度の小さな水疱(水ぶくれ)や潰瘍を引き起こします。
慢性化したり、繰り返し感染したりすることが特徴的です。
>>ヘルペスはうつるの?原因や症状、治し方や口唇・性器ヘルペス・帯状疱疹について
カンジダ
「カンジダ属」という真菌(カビ)の仲間による感染症です。
女性の5人に1人が発症するとされています。
感染した場合、女性ではカッテージチーズ様・ヨーグルト様といわれる特徴的なおりものの異常、男性では亀頭からの白い粕状の分泌物が見られます。
慢性化すると全身感染症となります。
また、妊娠出産時に新生児に感染する産道感染を引き起こす可能性があります。
>>女性に多いカンジダ症ってどんな病気?男女別の症状や原因、治療について
股部白癬(いんきんたむし)
「白癬菌」という水虫の原因となる真菌(カビ)による感染症です。
比較的男性に起こりやすく、陰嚢、性器ではなくその周囲の大腿部を中心に皮疹とかゆみが起こり広がっていきます。
性行為だけでなく、皮膚片やシーツ、タオルなどを介して周囲に容易に感染を引き起こすため注意が必要です。
毛ジラミ症
「毛じらみ」という1mm程度の小さな吸血生昆虫が陰毛に感染することで起こります。
吸血する際に強いかゆみを引き起こします。
尿道炎やせ精巣上体炎を引き起こす場合もあります。性行為だけでなくシーツ、タオルなどを介して感染するため注意が必要です。
その他の症状について
湿疹や皮膚のかゆみも性病?
例えば湿疹などは感染症によって起こる症状ではありません。
感染症ではありませんが、陰部にかゆみを引き起こし性病と勘違いすることもある病態について説明していきます。
接触性皮膚炎
一般的に「かぶれ」といわれている、外部からの刺激によって皮膚が炎症を起こしている状態です。
刺激の原因としては、皮脂、汗、蒸れ、乾燥、女性の場合ナプキンやタンポンのひもの接触、経血に伴う蒸れなどが原因となります。
また、衣服やコンドームなどに対するアレルギー反応が原因となって発生する場合もあります。
脂漏性湿疹
陰部だけでなく頭皮、脇などの皮脂が分泌されやすい部位によく見られる疾患です。
皮膚にいる「マラセチア」という常在菌が皮脂を食べて分解してできた物質が皮膚を刺激して痒みを伴う皮疹を引き起こします。
外陰部掻痒症、萎縮性膣炎
更年期以降の女性に発生する独特な症状です。
膣粘膜の萎縮や乾燥が起こることでかゆみや痛みを引き起こします。
原因としては閉経に伴う女性ホルモンの低下と考えられています。
痛みが出る場合も
かゆみに伴って痛みも生じる場合があります。
どのような時に痛みが出るかで、ある程度原因をしぼることができます。
陰茎・陰嚢・外陰部痛
特に何もしていなくても、あるいは衣服と擦れることで痛みを生じます。
男性では陰茎や陰嚢、女性では外陰部や膣に対する感染や炎症が考えられます。
クラミジア、ヘルペス、トリコモナス、カンジダなどへの感染が考えられます。
排尿時痛
排尿した際に痛みを感じます。
尿道や膀胱への感染が原因と考えられます。
クラミジア、ヘルペス、トリコモナスなどへの感染が考えられます。
性交時痛
性交渉時に痛みを感じます。
膣への感染や炎症が原因と考えられます。
クラミジア、トリコモナス、カンジダへの感染が考えられます。
感染以外の原因としては萎縮生膣炎の可能性が考えられます。
腹痛(下腹部痛、上腹部痛)
女性がかゆみに加えて生理痛とは異なる痛みを感じた場合は特に注意が必要です。
性感染症が気付かない、あるいは治療されないまま経過していった場合に感染がお腹の中に広がっていくことで起こります。
専門的には骨盤腹膜炎やFitz-Hugh-Curtis症候群などと呼ばれ、不妊の原因となることや手術を要することもあります。
性行為をしていなくても性病になるの?
先ほど説明した7つの感染症(「クラミジア」、「梅毒」、「トリコモナス」、「ヘルペス」、「カンジダ」、「股部白癬」、「毛ジラミ症」)はいずれも性行為にて感染を引き起こします。
ほとんどの感染症はコンドームを使用することで予防できます。
しかしながら、「白癬菌」や「毛じらみ」はコンドームでは予防できません。
同じベッドで寝ているだけ、感染者と入浴しただけでも感染してしまう可能性がありますので、注意が必要です。
病院での検査と治療について
どんな検査をするのか
診察では主に視診と問診をおこないます。
陰部を見せることや、性交渉歴を話す事は恥ずかしいと感じることがあるかもしれませんが、診断するためには必要なことですので正しい情報を伝えてください。
検査では分泌物や剥がれている皮膚の一部を採取して、顕微鏡で調べたり、培養して菌を増やしたりすることで原因を特定します。
また、採血をすることで感染が判明する感染症もあります。
治療について
点滴、飲み薬、膣剤、塗り薬といった治療薬があります。
それぞれの疾患に対して使用される薬剤は異なります。
自己判断で以前と同じ薬を使うことは治療効果が全く見られない可能性もあります。
必ず病院を受診して診断をつけてください。
また、治療し始めてすぐに症状がおさまってしまい、薬の使用を中断してしまう方も見られます。
中途半端な治療は再発や耐性株の出現、周囲への感染のリスクとなりますので、必ず医師の指示の通りに治療を受けてください。
デリケートゾーンのかゆみに対する市販薬も販売されておりますが、たとえば抗菌薬や抗ウイルス薬は市販することは許可されていません。
そのため、市販薬では治癒することができずに、症状を落ち着かせているだけの状態となることも少なくありません。
このような場合は頻回に症状が出るようになり、さらには慢性化してより重症な感染症となってしまいます。可能な限り病院を受診し、治療をおこなってください。
放置せずにすぐに受診を
性感染症は疲れやストレスなど、自分の免疫力の低下が原因で症状が出ることが多くみられます。
そのため、放置していても自分の免疫力が回復すると症状がおさまってしまうこともあります。
「症状がない」ことが「感染していない」ことではありません。
誤った認識で行動するとパートナーなど周囲への感染を起こしてしまうこととなります。放置することなく病院を受診しましょう。
病院に行くことや、陰部を見せることが恥ずかしいと感じ、病院を受診しない方もいると思います。
感染症は放置し悪化や慢性化した場合、不妊や全身感染症、長期入院となってしまう可能性があります。
少しでも気になる症状が見られた場合は放置することなく受診していただくようお願いします。
また、パートナーの感染も考えられますのでできる限りパートナーも一緒に検査を受けていただくようお願いします。
日常生活でできる予防法は?
感染症に対する予防は、不特定多数との性交渉は避けること、性交渉時はコンドームを使用することがあります。
もし、治療を受けられているのであれば症状消失だけでなく血液データ等での治癒確認を行うことは再発予防のために重要です。
また、これらの病原体に対して免疫ができることは少なく、容易に再感染を引き起こしてしまいます。
パートナーの感染を確認することは、再感染のリスクの軽減につながります。
病院や家来るドクターでできる治療
病院を受診すると診断から治療までおこなうことができます。
家来るドクターでは原因病原体を確認できませんが、医師の経験や、病歴、かゆみ以外の症状を確認させていただくことで、病気の絞り込みや一時的な治療をおこなうことができます。
病院を受診したほうが良いか迷っている方も診察を通じで、医療機関を受診し検査を受けた方が良いかのアドバイスを行うことができます。
まとめ
陰部のかゆみはちょっとした生活習慣の乱れから、重篤化しうる感染症まで幅広い原因が考えられます。
放置することは重篤化のリスクだけでなく、周囲への感染拡大につながってしまいます。
正しい診断、治療をおこなうことが、あなた自身、パートナーなどを守ることにつながります。
正しい知識をつけて、必要に応じて医療機関の早期受診をしましょう。
参考文献:
病気がみえるvol.6免疫・膠原病・感染症(第2版)
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【監修医師】
西春内科・在宅クリニック 伊藤医師